研究テーマ:大気ブロッキングの持続メカニズムについて
スーパーバイザー:伊藤久徳教授
所属学会:日本気象学会,American Geophysical Union 修士から博士課程にかけて,大気ブロッキングの持続メカニズムについて研究しています.大気ブロッキングとは,対流圏(高度およそ10km以下の大気層)上層の偏西風帯において,通常東西方向に流れるジェット気流が南北に大きく蛇行・分流する状態が(地理的にもほぼ固定された状態で)1週間以上の長きにわたって持続する現象です.ブロッキングが起こっている間は,南北に強く蛇行した状態でジェット気流が維持されるため,その定常的な南風・北風に関連した熱波・寒波や,そのジェット気流に乗って移動する移動性高低気圧の経路の変化によって,異常な気象が続くことがあります.また,ブロッキングによって起こるジェットの蛇行・分流は(地衡風の関係から)偏西風帯での大きな高気圧と同一であり,この大きな高気圧の停滞は,Rossby波の伝播を通じて地球一円の偏西風の変調を導く可能性があるので,地球半球規模の遠くの気象に影響を与える(テレコネクション)可能性があります.ちなみに,この大きな高気圧のことをブロッキング高気圧といいます. ブロッキング現象は20世紀の初頭からその存在が知られていましたが,そのメカニズムについては,発生・持続ともに現在も多くの研究者に議論されています,僕自身もブロッキングのメカニズムについての研究を行っていて,特にその持続のメカニズムについての研究を行っています. なぜブロッキングの持続メカニズムが重要かというと,ブロッキングは,総観規模(天気図を見て認識できるスケール.特にブロッキングは,十分に地衡風近似が成り立つ1000-10000kmのスケールを持つ.)現象の中でも群を抜いて持続性が長くかつ振幅の大きい(天気図で流線がはっきりと認識できる)現象だからです.そのような状態を維持するためには,例えば台風のように独特なメカニズムを持っていると考えられます.
ブロッキングの持続メカニズムに関して,ブロッキングによって経路を曲げられる,あるいは「ブロック」される移動性高低気圧自体が,ブロッキングの持続をサポートしているという説が,1977年のG. S. A. Green (UK)の研究を皮切りに,盛んになされるようになりました.そのブロッキングと移動性高低気圧との相互作用メカニズムに関して,G. J. Shutts (1983, UK)は,移動性高低気圧(eddy)がブロッキング領域を通過する際に,南北に強く引き伸ばされる(straining)されることによって,ブロッキングを強化するセンスに強制し,それによってさらに移動性高低気圧を強く引き伸ばすというフィードバックメカニズムを提唱し,それを数値実験によって証明しました.(Shutts 1983は,現代の気象学者が読んでも勉強になるほど,洞察に富んだ名著だと思います.私による拙い訳ではありますが和訳.pdfを作りました.学内限定で取得できます.)このメカニズムは,Eddy Straining Mechanismといって,現在も,ブロッキングの持続メカニズムとして広く受け入れられています.しかし,Eddy Straining Mechanismに関して,いくつか明白にすべき点があることに気づきました.そこで,Potential Vorticity (渦位,PV)の視点から,新たなメカニズムを提案し,その検証を行っています.その内容についてはこれまで,「異常気象と長期変動」研究集会や地球流体力学研究集会(.pdf)などで発表を行いました.論文は,"Selective Absorption Mechanism for the Maintenance of Blocking"のタイトルで,レターとして出版されました.自身の研究と先行研究についての考察は修士論文.pdfに記述されています(ただし,後々考えると説明不足なところや些細な改善すべきところが多々ありました.本質的な部分は揺るがないのですが,解析方法・解釈・考察に関しては発展途上でした(おそらくこれからも)ので注意して下さい).
ブロッキングは非常に非線形性の強い現象で,海洋でのレンズ渦や木星の大赤斑と同じように,周囲の流体から「孤立した」構造を持つ孤立渦とみなされます.そのような非線形性の強い渦や波に対して,非線形方程式を解析的に解くというアプローチがなされてきました.それが,ソリトン理論やモドン理論などです.ソリトンやモドンは,流れの中で孤立して存在できることや,渦(もしくは波)の形状としてブロッキングに似た流線関数の分布を取ることができるので,1980年代くらいからMalanotte-Rizzoli (US)・J. C. McWilliams (US)・K. Haines (UK)などを代表にブロッキングへの適用が精力的になされてきました. 特にモドン(modon)は,その解の形状がブロッキングと似ていること,強い非線形性がある場合でも理論が成立すること,(中緯度の総観規模現象をある程度良く記述できる)準地衡渦位方程式の厳密解であることなどから,ブロッキングとプロトタイプとしての有用性が指摘されてきました.2009年12月に九大で行なわれた久保川厚教授(北海道大学)の集中講義に際して,ブロッキングのモデルに適用可能なベータ平面でのモドン解の導出方法についてレジュメ(レポート).pdf 「等価順圧モデルでのモドン解と大気ブロッキングへの応用」を作成しました.より的確で,孤立渦の力学に関する包括的な資料は久保川厚教授のサイトにある講義ノート「地球流体中の孤立擾乱と渦の力学 」を参照して下さい. また,ソリトンやモドンのブロッキングへの適用についてや,そのような非線形厳密解を現実のブロッキングの力学に当てはめる際の総合的なレビューに関して,木本昌秀教授(東京大学AORI)による気象研究ノート「気象とソリトン・モドンー気象現象中の孤立波 ブロッキング現象」に非常によくまとまって記述されています. 自身の研究とソリトン・モドン理論との関連では,Arai and Mukougawa (2002, Jour. Meteorol. Soc. Jpn.)にならって,ブロッキング流をモドン解として,そのブロッキング流の回りで線形化した方程式についての安定性解析を,スペクトルモデルでの固有値問題として行いました.その固有値問題に必要なJacobian行列の作り方をレジュメ.pdf 「チャネル型スペクトルモデルによる線形安定度解析」にまとめています.
傾圧波(移動性高低気圧)は,ブロッキングの持続に関して非常に重要な大気現象です.1940年代にCharney (US)とEady (UK)によって標準的な理論が確立されてから,その力学や気候学的特徴など,多くの点に関して研究が行われてきました.私は,特にその傾圧波のライフサイクルとその力学について特に興味をもっています.その理由は,ブロッキングが発生しやすい領域が偏西風帯での太平洋東部・大西洋東部というストームトラック(移動性高低気圧の通り道)の下流に集中しているからです.傾圧波は,ライフサイクルの後半になると,振幅が大きくなるため,非常に非線形性の強い振る舞いをします.そこで起こる振る舞いを勉強するため,研究室で関連論文に関してのゼミ(コロキウム資料.pptx「傾圧波のメカニズムについて」,学内のみ)を行いました. 自身の研究と関連して,最近(2010年8月現在)急速にPVへの興味が深まっています.PVは(一言で言おうとすると),断熱・無摩擦で保存される物理量です.もちろんPVの魅力は一言で語り尽くせるものではなく,これまでも多くの先駆者の方々によってその有用性・実用例が示されてきました.現在の私の認識では,PVを用いる利点は主に'PV inversion'と'scale effect'の組み合わせであると思っています.詳しいことは,Hoskins, McIntyre, and Robertson (1985, Q. J. R. Meteorol. Soc.)を参照して下さい.また,学内のみでコロキウム資料.pptx「PV thinkingとバランス力学について」とHoskins et al. (1985)の和訳.pdfを公開しています. PV-inversionにおいて境界条件(特に対流圏では下層境界)は重要な役割を持っています.準地衡渦位の下層境界としては,内部でのPVの式の代わりに温位の式が使われる方法が一般的となっています.その最初の定式化を行なったBretherton (1966)での議論と物理的な解釈についてのレジュメ.pdf「Bretherton (1966) 流の下層境界条件について」を作りました.また,Davis and Emanuel (1991)で導入されたPV-partitioningという,PVを領域・性質で分けてそれぞれでinversionを行なう手法に関連して,PVアノマリー(渦)の極性とinversionされた風場・質量場の関係について,いくつかの先行研究の内容をレジュメ.pdf「PV-partitioning が PV-inversion に与える影響—極性の偏りに関して—」にまとめています. 準地衡渦位はしばしば擬渦位(pseudo potential vorticity)と呼ばれることがあるように,Ertelの渦位と類似した性質を持っています.Hoskins and Pearce (1983)によって示されたように,Ertelの渦位についての方程式に準地衡系のスケーリングを適用(して線形化)すると,準地衡渦位に関係した方程式を導くことができます.レジュメ.pdf. このサイトは発展途上です.文章の内容や,リンクされているのファイル(pptやpdfなど)について,何かコメント・感想・質問などございましたら,山崎の方までご連絡いただけるとうれしいです.また.学内のみにしか公開していないファイルについても,もし興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらご遠慮なく山崎の方までご連絡下さい. ここで,直接は関係がありませんがこの研究室のサイトの外観はほぼ山崎祐子さんによるものです.ボランティアで本ウェブサイト作成に力を注いでいただいた山崎祐子さんに,この場を借りて御礼申し上げます. 連絡先:所属住所:〒812-8581福岡市東区箱崎6-10-1九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻 居所:理学部本館4階1433号室 Tel: 092-641-2675 (内2675) Fax: 092-642-2684 E-mail: yzaki(@weather.geo.kyushu-u.ac.jp) 最終更新日:2011年10月30日 Go back to Members Page.
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