2003年7月19日福岡豪雨の解析

対流圏科学研究分野 市丸裕美子



九州地方では,梅雨期にしばしば豪雨が発生し,土砂災害・洪水など被害を及ぼす。それ故,豪雨のメカニズムの研究は,気象学的重要性はもちろんのこと,防災上からも重要である。 本研究では,2003年7月19日の福岡豪雨を研究対象とし,その特徴や構造を調べた。

2003年7月18日夕刻から19日未明にかけて,福岡県において集中豪雨が発生した。気象庁AMeDAS観測データによると,太宰府では1時間降水量104mm,日降水量315mmを記録した。これは1999年6月19日福岡豪雨時に篠栗で観測された1時間降水量100mmを越えており,今回の豪雨が1999年福岡豪雨と同程度,あるいはそれ以上の豪雨であったことを示している。

本研究では,気象庁と福岡県の観測データから豪雨発生の環境場を解析し,更に数値実験を行って今回の豪雨における降水系の再現を試みた。 気象庁天気図,気象衛星GOES赤外画像から環境場を解析した。2003年7月18日から19日にかけて梅雨前線は対馬海峡に停滞していた。一方,オホーツク高気圧の勢力が強く,低気圧は東方伝播がブロックされ,朝鮮半島付近に停滞した。

MANAL,気象庁ウィンドプロファイラーデータの解析によると,九州南西海上から九州北部にかけて多量の水蒸気流入が確認された。低気圧が停滞したことによって上層風が長時間一定方向に保たれ,かつ多量の水蒸気が流入して長時間にわたる豪雨につながった。

MCS(メソ対流系)は下層で収束・正渦度,上層で発散,負渦度という構造が見られ,これまでの研究による梅雨期MCSの特徴と一致していた。擾乱発達期と最盛期とを比較すると,収束・正渦度が対流圏中層まで深く伸びるという変化が見られた。このことから,収束・正渦度がMCSの発達に深い関わりがある可能性が示された。擾乱の渦度はほぼ直立していた。

降水系の詳しい発生・発達メカニズムや構造を調べるためにMM5を用いて数値シミュレーションによる再現を行った。その結果,豪雨時にレーダーエコーデータで確認できた線状降水系がシミュレーションでも長時間にわたって再現できた。シミュレーション結果を用いて解析を行うと,中層に低相当温位を持つ空気塊が流入したために,線状降水系の東側のほど対流雲の背が高くなることが確認された。渦度生成については,移流項と発散項が大きく寄与していることが分った。

渦度が境界摩擦層収束を通じて上昇流を強化している可能性はないかという作業仮説にたって,境界摩擦層をなくした感度実験を行った。その結果,境界摩擦層は上昇流を強化するのではなく,逆に抑制する働きをすることが分った。