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冬における台風発生の数値シミュレーション
池田泰論・伊藤久徳(九大院・理)
1 はじめに

 台風の発生に好都合な条件としては、海水面温度が26.5℃以上、下層の低気圧性 渦度、弱い鉛直シアーなどがあげられている(Gray 1968) 。しかし、そのような条件下でどのように台風が発生するのか、その詳細な過 程はいまだよくわかっていない。その点で、実際の台風の発 生過程をシミュレートし、解析することは、発生過程の研究にとって重要なアプ ローチである。
 一般に台風が頻発する夏は、台風発生に適した環境場、逆に冬は不適な環境場 だと思われる。しかし冬にも台風は発生している。それは大規模場が台風形成に 適していたからだと考えられる。モデルの初期値には大規模場のデータを用いる ため、大規模場の影響が大きいであろう冬の台風は再現しやすいと思われる。 そこでこの研究では、冬に起こった台風9626, 0023, 0125号のシミュレートを試み、 台風形成の過程をPV(potential vorticity)の視点から調べた。また、ウォーム コアの形成過程について熱力学の式から定量的に調べた。


2 使用したモデルとデータ

 使用したモデルはPSU/NCARのMM5 ver. 3.4である。三重ネスティングをしており、 格子間隔はDomain1,2,3でそれぞれ81km, 27km, 9kmである。 Domain1にはAnthes-Kuoの、Domain2,3にはKain-Fritschの積雲パラメタリゼーシ ョンを用い、 explicit積雲スキームはすべてのDoaminでsimple iceを用いている。また、4次元 データ同化や台風ボーガスは行っていない。解析には主にDomain3の結果を用いた。
 モデルの初期値・境界値としてはNCEP/NC-AR再解析データ(2.5°格子 )の海面気圧・ジオポテンシャル高度・風・大気温度・相対湿度、そして、Reynolds 海面温度 (1.0°格子) を用いた。また、観測との比較にGMS-5のTBB(Equivalent Black Body Temperature)データ、QuikSCAT海上 風データを用いた。


3 結果

 観測で熱帯低気圧となった二日前からシミュレーションを開始したにもかかわら ず、どれも比較的、現実的な台風をシミュレートできた(図1)。
 3例に共通して、熱低の二日前の段階で下層は低気圧性の渦を巻 いており(図2)、上層では広く高気圧性の回転をしていた。 やがて下層の渦においてシアーラインが形成され(図3)、 多くの積雲が発達し、その非断熱加熱によってPVが生成された。生成されたPVは 渦中心へ移流されていき、合併を繰り返して渦を強化した(図4)。 シミュレーションで見られたシアーラインはQuikSCATによる海上風データでも見 られ、収束も確認することができた(図5)。また、TBBデータでも 図5とコンシステントな位置で雲列が見られた。これはシミュレー ションと同様のことが実際に現実大気でも起こっているということを示唆するも のである。
 T0125では、ウォームコアの形成は台風強度が達成されたのと同時期に形成され た(図6)。 モデル中の熱力学の式から定量的に調べたところ、ウォームコアの形成には雲の 凝結による非断熱加熱が効いており、ある程度渦が強まってからの維持・強化に は下降流による断熱加熱が効いていた。
 T9626, T0023の事例でも基本的に同じ発生過程であったが、ウォームコアの形成 については、T0023だけは渦外部からのウォーム部の移流という形をとっていた。



図 1: T0125における観測とシミュレーションのストームトラック比較。

図 2: 950hPaにおける初期場。風ベクトルと渦度(シェイド)。

図 3: T0125のシミュレーション開始から49h後。850hPaにおける風 ベクトルと収束(シェイド) 。

図 4: シミュレーション開始から66,68h後のPV(シェイド)、海面気 圧(コンター)、風ベクトル。PVが渦の中心へ移流され、合併する様子。

図 5:3の12h前におけるQuikSCATによって与えられ た海面高度の風ベクトルと収束(シェイド)。

図 6: 67hにおける850hPaの温位偏差と風ベクトル。ウォームコアが形成され ている。

tairon 平成16年3月18日