九州地方で発生した竜巻に関する研究

    対流圏科学研究分野 下瀬健一

1.はじめに

竜巻は,いまだに謎が多い自然現象の一つである。アメリカ合衆国をはじめとして,世界各国で竜巻研究が盛んに行われているが,竜巻の時間・空間スケールが小さいため詳細な観測データが少なく,その現象は完全には解明されていない。特に日本では,気象庁現業ルーチン観測網で竜巻を捉えることは極めて困難であるため,竜巻の発生・発達メカニズムに関する研究報告例は少ない。そこで本研究では,竜巻が発生した環境場を気象庁現業ルーチン観測データから解析するとともに,近年急速に発達してきた雲解像数値モデルにより,竜巻の発生環境を時間・空間に関して高分解能で再現することを試みた。また,今回の研究対象は,気象データを入手しやすい九州地方で発生した竜巻とした。

2.使用したデータと数値モデル

データ

・気象庁天気図  ・気象庁気象災害報告  ・メソ領域客観解析データ(MANAL)(水平格子間隔10km

・気象庁レーダーデータ  ・高層気象観測資料  ・AMeDAS10分間値  ・ウインドプロファイラーデータ

数値モデル: 完全圧縮系非静力学モデルPSU/NCAR MM5

(初期値:MANAL42wayネスティング(水平格子間隔8.1km,2.7km,0.9km,0.3km))

3.解析結果・考察

気象庁気象災害報告をもとに発生事例を調べた結果,過去33年間に九州地方で発生した竜巻は,台風と寒冷前線に伴うものが多いことがわかった。その事例の中で典型的なケースであった,2003619日に宮崎県門川町で発生した台風事例と,2002106日に鹿児島県加世田市で発生した寒冷前線事例を解析対象として選んだ。まず,天気図,高層ゾンデデータ,MANALを用いて竜巻発生時前後の環境場を解析し,さらに,レーダーエコーとAMeDASデータ,ウインドプロファイラーデータを用いてメソ解析を行った。

2003619日の台風事例の場合,台風の中心の東側約400km付近で竜巻が発生していた。大気の鉛直構造は,全層ほぼ湿潤であった。対流圏下層では,発生地点付近に強い正の渦度領域が存在していた。南東海上から進行してきた強いエコー領域が通過した時に,竜巻が発生しており,この発生時刻は,台風に伴う強風域が,上層から下層へ下降してきた時刻とも一致していた。

2002106日の寒冷前線事例の場合,寒冷前線の通過直前の暖域で竜巻が発生していた。大気の鉛直構造は,全層ほぼ湿潤であり,発生前の対流圏下層から中層にかけての水平風場には時計回りのシアが見られた。下層では,水平風の収束線と寒冷前線の位置がほぼ一致しており,その前線面のすぐ背後に強い正の渦度帯が存在していた。その収束線に沿って発生した強いエコー領域が通過した時に,竜巻が発生していた(図1)。

竜巻あるいはその親雲の構造や発生・発達についてさらに詳しく調べるために,MM5を用いて数値シミュレーションを行った。その結果,2003619日の台風事例の再現はうまくいかなかったが,2002106日の寒冷前線事例は時間と位置に多少ずれがあるものの,竜巻を発生させたものとよく似たシステムを再現することができた(図2)。得られたモデルの結果の解析から,そのシステムの最盛期において,強い降水域の前面で,下層の渦度が約0.015(/s)まで発達し(図3),その上の中層に強い上昇流が存在していたことがわかった。渦度方程式を用いた収支解析の結果から,他の項に比べてストレッチング項が最も強い正の寄与で働いていることが示された。

 

1(左):寒冷事例の竜巻発生時(14:30JST)のレーダーエコー

2(中):再現されたシステムの雨水混合比 (15:10JST,950hPa),ベクトルは水平風速

3(右):システム最盛期の相対渦度(シェイド)と雨水混合比(コンター) (15:30JST,950hPa),ベクトルは水平風速

 
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