数値実験による台風発生過程の研究

対流圏科学研究分野  三苫啓太

1.             はじめに

 台風とは、北西太平洋域に存在する熱帯低気圧のうち、中心付近の最大風速が約17m/s以上のものである。熱帯海洋上の現象であるため観測データも少なく、その発生の過程はいまだ十分に理解されていない。1970年代に入ると3次元台風モデルが登場し、台風の研究には数値シミュレーションが欠かせないものとなった。最近では、nestingparametarizationの方法も発展しており、積乱雲()を解像しながら台風をシミュレートできるようになってきた。本研究では、実際に台風が多く発生した期間での北西太平洋域について比較的長い時間のシミュレーションを行い、再現された複数の台風を比較することによって、その発生過程を調査する。

 

2.             使用したモデル、データおよび研究方法

・使用した非静力学3次元モデル   : The Fifth-Generation NCAR/Penn State Mesoscale Model (MM5)

・積分時間             : 19909100UTCから199093012UTC

・初期値および境界値に用いたデータ : NCEP/NCAR再解析データ (6時間毎:2.5度格子) 

19909月には台風17号から20号の形成が、比較的狭い領域で報告されている。上記のモデル(MM5)、データを使用して、この一ヶ月間のシミュレーションを行った。台風が発達するためには、対流圏下層の渦の存在が不可欠であると言われている。このため950hPa(高度約500600m)での渦位が1PVU(10-6 m2 K kg-1 s-1)以上の領域を台風の初期渦として、それから台風へと発達していった過程を追うこととする。

 

3.             結果

 数値実験を行ったところ、現実の報告とはかなり差が生じたものの、3個の台風が得られた。

台風の初期渦形成では、対流圏中層(600hPa付近)に存在するメソβスケールの雲からの降水域である下層で渦が生成されていた。この時、雲と降水域が鉛直上方に300hPa以上まで発達し、それに伴って渦も鉛直に発達することが、再現された全ての台風に共通して確認された。その後、周辺の渦を吸収する事により、この渦の熱帯低気圧(台風)へ発達が可能となったようである(1.a~d)

熱帯低気圧の発生を、海面気圧における周辺(半径数100km)よりも6hPa以上の低圧域の出現と仮定した。初期渦の上空には、この時間までずっと対流圏中層の雲が存在していた。これに加え、さらに上層(200300hPa付近)の雲からの降水が確認された。この場合もそれに伴って初期渦は強められ、海面気圧における低圧域が顕著になった。ただしこの時には、初期渦形成時のような雲の急激な鉛直発達は見られなかった。

熱帯低気圧が台風の強さへ到達する時、下層での渦位の極大域は台風の中心ではなく、むしろ強い壁雲の降水域に位置していた。また中部対流圏の渦位の極大域とは位置がずれている事もあるが、渦位の極大域が下層から中層まで直立する時、その付近の地表風速がさらに強くなっていた。

テキスト ボックス: 図1. 
9月1日
a:13時
b:15時
c:18時
d:22時
a Created with The GIMP b Created with The GIMP c Created with The GIMP d Created with The GIMP 

※ 数値実験で再現された1つめの台風の初期渦形成の過程(東西−鉛直断面図):渦位(PVUcolor),雨水混合比+雪混合比(kg/kgcontour)

  9113時〜22時の間に、下層で渦が生成され降水域が鉛直発達していく様子が分かる。上の図の降水域はバンド状の対流圏中層雲の北端の極大付近に位置しており、大規模な風の場の影響によって、ここで生成された渦が周辺の渦を吸収して発達を続けた。