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北大西洋振動(NAO)と北欧の降水変動に関する研究

対流圏科学研究分野  稲丸貴志
1 はじめに

 北大西洋振動(NAO)とは、北大西洋とその周辺において気圧、気温、降水量などが 変動する teleconnection patternであり、一年を通して存在しているが、冬季(12月〜3月) 特に発達する。 気圧の観点から言えば、北大西洋中・高緯度間の気圧差偏差の振動で、アイスラン ド付近に低圧部、 ポルトガル沖のアゾレス諸島付近に高圧部を配置した双極子状のパターンである。 気圧差が強まると北大西洋での西風が強化されるため、気温がグリーンランドでは 平年より低くなり、 スカンジナビア半島では平年よりも高くなる。逆に気圧差が弱まると、気温がグ リーンランドでは平年より高くなり、スカンジナビア半島では平年より低くなることが知られている。
 特別研究では、NAOの強度を定量的に表したNAO index と、北欧(特にスカンジナビア半島南西部)における降水量とは 強い相関関係があるとの結論を得た。 そこで本研究ではそれをさらに進めて、北欧における降水変動がどのようなメカニ ズムで起こっているのかを解明することを目的とした。

2 データ

本研究ではNCEP/NCARの再解析データから、 比湿、東西風速、南北風速 の1950〜2000年における月平均データ、 特定の年の日平均データを使用した。 また、NAO indexについてはJ. W. Hurrell (NCAR. 1996)によるものを使用した。

3 解析方法と結果

まず、最初に12月〜3月を一区切りの冬として50の冬の期間で月平均データから 水蒸気フラックスについて計算し、その発散収束を求めた。 その結果をNAO indexが大きい値をとる5つの冬、小さい値をとる5つの冬それぞれ で 合成し比較した。しかし、思ったほどの違いが見られなかったため、次に月単位で 水蒸気フラックスの発散収束を見た。 すると、高indexと低indexの間に顕著な差が見られた。 また、降水は日々の現象であることを考慮して、日平均データからも上と同年同月 の水蒸気フラックスの発散収束を求めてみたが、若干の分布の差はあるものの、ほぼ 同じような結果を得ることができた。
 次に、日平均データから850hPa面における鉛直渦度偏差を計算した。 一日ごとの分布から、設定した閾値より大きくなる正の渦度偏差を移動性の低気圧とみなし、 その軌跡(ストームトラック)を研究対象としている領域内で追跡した。 ストームトラックを高NAOindex時と低NAOindex時で比較して見ると、地中海近辺で 違いがあったものの、他の領域ではほとんど差は見られなかった。 しかしながら、渦度の平均値とその分散には違いが見られ、 高NAOindex時には渦度の平均値も分散も大きいことから、 移動性低気圧の発達が強く、水蒸気輸送に寄与していると思われる。

図1: 月平均データから求めたhigh-index(0.7以上)時の 水蒸気フラックス(vector)の発散収束(contour)の事例平均。正が発散、負は収束を表す。単位は1/s。

図2: 月平均データから求めたlow-index(-0.7以下)時の水蒸気フラックスの発散収 束の事例平均。見方は図1に同じ。


tairon 平成16年3月18日