北太平洋西部における台風発生に関する
大規模場と海水面温度
Environmental Field and Sea Surface Temperature
Associated with Tropical Cyclogenesis in the Western North Pacific

対流圏科学研究分野  古沢進

 

 

1 はじめに

 

過去の研究より,台風発生の気候学的条件として,海水面温度(SST)が26.5℃以上,下層の強い低気圧性渦度,弱い鉛直シアなどが挙げられている。しかし,個々の台風発生についてはどのような環境が好ましいか,まだ研究が進んでいない。そこで本研究は,個々の台風発生に好都合な環境場の条件の調査を目的とし,さらに環境場と共に,台風発生に関連する高周波擾乱について調査した。

 

2 データと解析方法

 

用いたデータはNCEP/NCAR再解析データ,NOAA・CDCのReynolds SST,台風の事典,気象庁best trackデータで,期間は1980年から2000年(但し,SSTに関しては1982年から1999年)までの7月から10月である。
解析はまず,各物理量に対し台風場と全体場の頻度分布を作成し,これらの分布の差が有意であるか検定を行った。ここで,台風場は台風発生地点,発生時間のデータで定義し,全体場は台風発生地点における全解析期間のデータで定義した。
次に,台風発生地点に相対的な場のcomposite解析を行い,発生地点付近の環境について調査した。また,各データにはcut-off周期15日のlow-pass filterをかけることで台風の影響を除去し,これを環境場と定義した。高周波成分は,フィルターを通さない生のデータから,環境場を引いたデータで定義した。
以前の研究から台風発生は大規模下層流の特徴によりいくつかのパターンに分類されることが分かっている。本研究では,Ritchie and Holland(1999)を参考に台風発生をmonsoon shear line( SL),monsoon confluence region( CR),easterly wave( EW)の3パターン(図 1)に分類し,各々のパターンでcomposite解析した。
\includegraphics[width=8cm]{monsoon_trough.eps}

  図 1: 北太平洋西部,夏季における大規模下層流の概念図(Holland 1995)。monsoon depression付近の東風と西風に挟まれた領域がmonsoon shear line,西風と東風が合流している領域付近がmonsoon confluence region,全て東風となっている領域がeasterly waveに相当する。

 

3 Result

 

3.1 Comparison of histograms

 

  台風場と全体場の頻度分布を解析した結果,cut-off周期15日のlow-pass filterを通した環境場において,200hPaで発散,850hPaで南風・正の渦度,弱い鉛直シア,28.5℃付近のSSTが台風発生に好ましい条件であることが分かった。

 

3.2 Composite analysis

 

次に,発生地点付近の環境を調査するために環境場と高周波成分のcomposite解析を行った。その結果, SLパターンでは,環境場において東西風水平シアに関連する強い正の渦度の領域が存在する。西進する高周波擾乱が東からこの領域に進入すると,台風強度まで発達するものが多いということが分かった。また,500hPa鉛直風,850hPa相対湿度(RH)の解析から,この高周波擾乱は偏東風波動起源であるものが多いということが分かった。高周波成分の渦度composite場において,発生位置から西方に波列構造が見られる。ここで見られた発生位置より西にある渦度の極大は,対象とする台風が発生する以前に発生し存在していた台風の影響が出ており,台風発生に影響を与えると考えられる。
CRパターンでは,環境場において発生位置の西で西風,東で東風となっており,西風は南西から発生位置に流入し,向きを変えて北西へ抜ける。これに伴って発生位置から西に正の渦度域が存在する。台風に発達する高周波擾乱は SLパターン同様に偏東風波動起源のものが多いと考えられるが,これがconfluence regionに進入し,台風強度に達した。

EWパターンにおいては,環境場において発生位置付近で東風であるという特徴以外,顕著なものは見られなかった。しかし,高周波成分ではRHにおいて他の2パターンに比べ発生位置の東側の極大域が強いことが分かった。これは偏東風波動擾乱の特徴を顕著に表している。