梅雨期九州近海上において発達する
規則性を持ったメソスケール対流系の研究

対流圏科学研究分野 川口和哉

1 はじめに
梅雨前線の南側には200〜300km程度の幅で非常に湿潤な対流不安定領域があって,こ の領域ではいつ,どこで対流が発生してもおかしくない状況である。 そのため,地形等による強制が存在すれば活発な対流活動が発生し,九州地方を 中心とした西日本各地に集中豪雨をもたらすことが多い。ところが,地形の 影響が殆ど及ばないと思われる海上においても活発な対流活動は頻繁に発生して いる。しかも,いつ,どこで発生しても構わないはずであるにかかわらず,ある 時,ある場所で突如として対流活動が始まることが多い。この事実は,対流活動 を抑制する何らかの機構が存在することを示唆している。また,それが事実であ れば,その抑制を「振り切る」何らかの機構が存在することにもなる。

そこで,気象庁レーダーデータ及び天気図を用いて1993年から2002年までの10年 間,九州近海上における対流活動及びその特徴を調査したところ,幾つかの規則 性を持つ対流系を多数確認した。その規則性とは,

  1. 梅雨前線上ないしその暖域側において対流活動が発生しており,しかも対流活動の起点は梅雨前線からある一定の距離のところにある
  2. 南西−北東の走向をもち,ほぼ等間隔に雁行するエコーの列が集合して対流系が構成されている
  3. ほぼ全ての雁行エコーが同時に出現する
  4. 南西からの移流が卓越する


図 1: 北鹿児島レーダーエコー合成図(2001年6月23日1120JST/単位は反射強度 階級)甑島西方海上に等間隔に雁行するエコーが認められる

というものである。この現象は,対流活動が一定の場所である時に突如として発 生すると云うこと以外にも,「等間隔」であるという点で大変に興味深い。 本研究においては特別観測期間中で観測データが豊富に存在する2001年6月23日 及び同28日の事例を解析することにより,この現象の成因を探るとともに,これ を基に対流発生の抑制機構及び励起機構を調査した。

2 結果
23日の事例

当時,九州附近は下層が非常に湿潤で,特に,南部九州では強い対流不安 定を呈していた。だが,対流活動は太平洋高気圧の沈降によって抑制されていた。ま た,梅雨前線が中部九州附近に解析されていた。通常,前線 は温度傾度最大をもって定義される。しかし,それ以南でも等温位面 は緩いながらも傾斜を持っている。ここに太平洋高気圧の縁を回るように南 西風が吹き込み,下層の湿った空気が等温位面を滑昇。低い自由対流高度に達し,対流活動が始まる。しかし,次第に南から高温の気塊 が侵入,相対湿度は低下する。これにより自由対流高度が上昇。「根」を失 った対流系は衰退,消滅する。

28日の事例

当時,九州西方の東シナ海上は下層が非常に湿潤であり,強い対流不安定を呈し ていたが,太平洋高気圧からの沈降により対流活動は抑制されていた。また,梅 雨前線が北部九州から済州島附近にかけて解析されていた。この温位傾度の強い 済州島附近で気塊の上昇が起こり,対流活動が発生する。その後,地表附近では 冷涼な空気が北より侵入,等温位面が南下しながら押し上げられる形となり,気 塊が自由対流高度に達する位置も南下。それに伴い対流の発生位置が南下する。 同時に全層にわたって卓越する西風に各々のセルが流され,対流系自体は南東に 移動し,やがて東海上に抜けていく。

3 まとめ
解析した2つの事例より,梅雨前線の南側一定距離から対流が立ち上がる過程に ついては,以下のことがいえる。

まず,梅雨前線の南側に非常に湿潤な対流不安定領域と南傾斜の等温位面が存在する。しかしながら, 太平洋高気圧の沈降場であるためすぐには対流は発生しない。ここに、南よりの 風が吹き込むと湿潤気塊が等温位面に沿って滑昇し,自由対流高度に達して対流活 動を開始する。

しかし,高温の気塊が侵入すると相対湿度が低下。結果,自由対流高度が上昇し て対流の「根」を失う。同時に,太平洋高気圧からの沈降によって「頭」を押さ えつけられて対流系は衰退,消滅する。

4 今後の課題
今回の解析では,大きな場から見た対流活動の抑制・励起機構を調査した。だが, この結論は仮説の域を出ない。今後はモデルを用いたシミュレーシ ョンによりこの仮説の妥当性を証明しなければならない。

また,今回は小さな場から見た「等間隔」の成因を明らかにすることが できていない。モデルを用いたシミュレーションによって 今後解明していく必要がある。




tairon 平成15年4月26日