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傾圧波動(Baroclinic wave)



傾圧波とは,日本などの中緯度での天候を支配する約8000kmのスケールを持つ擾乱現象のことを指します.この擾乱現象は,私たちの住む日本では移動性高・低気圧という形で認識されています.以下に示すように,傾圧波は中緯度での極と赤道の温度差の結果生じる不安定波動です.つまり,太陽からのエネルギーを使って私たちの日々の天候を支配する移動性高・低気圧を駆動しているメカニズムが,傾圧波のメカニズムとなります.

傾圧波研究の歴史は古く,20世紀初期から,そのメカニズムについて様々な研究がなされてきました.その中でも最も有名な論文,Bjerknes and Solberg (1922)は,温帯低気圧が持つ温帯前線,寒冷前線に注目して,以下のようなメカニズムを提案しました:(1)まず,中緯度に南北で異なる温度を持つ気団が存在し,その気団を前線が分けていること.(2)そしてその前線面にそって水平シアー(前線をはさんで風の向きが変わっている状態)が存在し,低気圧の前方に温暖前線,後方に寒冷前線を作り,前線面で降水を伴いながら発達する.(3)後に寒冷前線が温暖前線に追いつき,閉塞前線を形成し,後に衰退する.

Bjerknes and Solberg (1922)の提案したメカニズムはほぼ本質を捉えたメカニズムとして,今日でも広く受け入れられています.しかしながら,Charney (1947),Eady (1949)の研究以降,傾圧波発達に必要なのは中緯度での強い南北温度差によって生じるジェットの強い鉛直シアー(上層に向かって西風が強くなっている状態)であり,前線は傾圧波動の存在に伴って発生してくることがわかりました.そして,これらの研究の結果,傾圧波の発達の条件や時間・空間スケール,気圧・温度構造などがわかるようになりました.

傾圧波は1週間程度で変化する気象現象を支配しています.そのため,週間予報の精度向上は,そのまま傾圧波の予報の善し悪しにかかってくることになります.しかし,傾圧波のメカニズムに関してはまだまだ未解明な点がたくさん残っています.

1940年代の後半から始まった傾圧波の力学に関する研究は,前線形成論,ライフサイクルの力学などを経て,更に発展を遂げています.現在では,より高精度になった数値モデルを用いて,傾圧波のライフサイクルにおける振る舞いや,湿潤過程を含めた記述,偏西風ジェットや低周波変動との相互作用,更には温暖化との関わりなど,より多様性を含みながら研究を進歩させています.