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サクラの開花と地球温暖化



植物の開花の時期は気温に密接に関係しています。従って,地球温暖化の影響を受けやすいと言えます。実際に近年の気温上昇傾向を受けて,植物の開花や落葉の時期が変化していることが数多く報告されています。

それは私たちになじみの深いサクラ(ソメイヨシノを対象としています)も例外ではありません。これまでは入学式の時期にようやく満開になっていたサクラが,最近では卒業式の時期にはもう満開になっていることが多くなった,と感じませんか。気温が上昇傾向にある近年,その傾向を受けて開花が早くなっていることが観測からも分かっています。しかし,もともと暖かい気候の地域では逆に開花が遅くなってしまう現象も観測されています。これは冬の十分な寒さを受けて芽が成長をし始める「休眠打破」という現象が,暖冬の影響で遅くなってしまったことが原因と考えられています。

また,現在サクラが平地で開花する南の限界は鹿児島県の種子島や伊豆諸島の八丈島と言われています。しかし,これらの地点では温暖化の影響からか最近では満開にならずに散ってしまう年も観測されるようになっています。この現象は暖冬が続き,休眠打破が正常に行われにくくなっていることが原因ではないかと考えられています。このような状態が続くと,将来的には開花すらしなくなるかもしれません。

私たちはこのような現状を踏まえ,サクラの開花の様子が温暖化によって今後どのような変化をするのか研究しています。サクラの開花をコンピューター上で再現し,気温が上昇したら開花の時期や満開などの状況も含めて今後どのように変化をするのかシミュレーションで予測しようとしています。

研究結果の一部を示します。図1は今から約70年後から90年後でのサクラの予測開花日の等値線図,俗に言うサクラの開花前線図です。この結果は日本付近で2~3℃程度,現在よりも気温が高くなるという仮定に基づいています。現在は南から順に咲いていく,つまり開花前線が北上していくのが一般的ですが,温暖化が進むと北九州地方から関東地方まで一斉に咲き,北上するのは東北地方に入ってからとなっています。また,南九州では開花前線が逆に南下している様子が見て取れます。この図を見ると開花の様子が現在よりも大幅に変わっていることが分かります。また,暖かい地方である南九州や太平洋側沿岸域では開花しない地域,開花しても満開にならない地域が出てきました。温暖化によりサクラの開花の南限は北上してしまうと考えられます。これらの地域では満開のサクラの下でお花見,という光景はもう見られなくなってしまうかもしれません。

図2はサクラの開花の時期がどう変化するか予測した図です。これを見ると春の気温が上がることにより,全国的に開花は早くなることが分かります。東北地方では今より20日以上早くなる地域も出てくる予測結果になっています。また,暖かい地方である南九州や太平洋沿岸地域では暖冬の影響で休眠打破の時期が遅くなり,現在よりも開花が遅くなる結果となりました。

このように,毎年繰り返す植物にまつわる現象は温暖化によって変動していくと考えられます。私たちはサクラの開花をはじめ,他の植物の今後の変化についても研究を重ねています。

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図1:2082年から2100年まで19年平均された予測開花日等値線図,および開花状況を表した図。値は1月1日を1とした通算の日数 (例えば91は4月1日)。赤い丸は開花しても満開にならない地域,青い星は開花しない地域をそれぞれ示す。

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図2:温暖化気候でのサクラの予測開花日の現在気候からの変化。2082年から2100年の19年平均と1982年から2000年の19年平均との差を取っている。青は現在よりも早く,赤は現在よりも遅くなっていることを示す。